【スオウ】
「驚かせてしまったようで申し訳ありません。ところで貴方は? こちらにお住まいの方ですか?」
【幹】
「あ、オレはここの管理人なんだ。全然らしくないだろうけど本当だよ」
【スオウ】
「管理人さん? 貴方の……お名前をお伺いしても、よろしいですか?」
【幹】
「樋口幹だけど?」
オレの名前なんか聞いて、どうするんだろう。
ここへ来るのが初めてじゃないってことは、やっぱり住人の知り合いなのか?
【スオウ】
「では……幹君は、ハナさんのお孫さんですね」
【幹】
「ばーちゃんや、オレのこと知ってるの?」
【スオウ】
「私が以前この近くにおりました際、ハナさんには懇意にしていただきました。その時に幹君のことも少し……」
【スオウ】
「事情があって離れて暮らしておいでとお聞きしてましたが、移ってらしたのですね。ハナさんもそれを望まれていましたから、喜ばしいことです」
樋口ハナっていうのが、ばーちゃんの名前だ。
住人じゃなくて、ばーちゃんの名前が出て来たことに驚かずにいられない。
ここへ来てまだ日が浅いけど、ばーちゃんの知り合いが訪ねてきたことなんて無かった。
初めて訪ねて来たのが占い師って……。
ばーちゃん、不思議な人と知り合いだったんだな……。
【幹】
「ばーちゃん、オレと一緒に暮らしたがっていたの?」
【スオウ】
「はい。出来れば幹君にこの下宿を継いでもらいたいと、そうおっしゃってましたよ」
スオウさんが微笑みながら告げてくる。
ばーちゃんの望みを、こんな形で聞くことになるとは思っていなかった。
【スオウ】
「ハナさんがお元気であればと思い、こちらへ立ち寄らせていただきましたが……。お孫さんに会えるとは思いませんでした」
【幹】
「あの……ばーちゃんは、その……」
【スオウ】
「ハナさん、お亡くなりになられたようですね。私も先ほど知って驚きました」
スオウさんが悲しげに眼を伏せた。でも……ばーちゃんが死んじゃったこと、どうしてわかったんだろう。
ここへ来て初めて知ったみたいだけど……?
【幹】
「そう……ばーちゃん、死んじゃってさ。だからオレが代わりに管理人をしてるんだ」
【スオウ】
「大変ですね。こんな広い庭をお一人で手入れされて」
【幹】
「今までさぼってたからね」
【スオウ】
「でも、ご自分の意志で始められたのでしょう? 綺麗にしていただいて桜も喜んでいますよ」
【スオウ】
「あまり花をつけることもない老木ですが、切り倒したりしないで欲しい。……そう懇願しています」
【幹】
「切り倒すなんて、そんなことしないよ!」
【スオウ】
「そうですか。幹君にそう言っていただけて私も安心しました。いつまでも大切にしてあげて下さい」
スオウさんの口ぶりだと、まるで桜の樹と会話でもしたみたいだ。占い師って、そういうことも出来るのかな?
出来ちゃったら……ますます怪しいよ……。
【スオウ】
「少し迷いましたが、こちらに来て良かった。幹君にも会えましたしね」
【幹】
「オレは、ちょっとビックリしたけどね」
【スオウ】
「驚かせたお詫びに、幹君の運勢を占わせていただけませんか? 占いがお嫌いなら、無理にとは申しませんが」
占いを信じてるわけじゃない。でも、ちょっと興味がわいてきた。
どんな結果でも、良いことだけ信じればいいんだ。
占いもだけど、スオウさんに興味がある。占い師なんて職業の人に会ったの初めてだもんね。
【スオウ】
「では、今日の運勢を占いましょう」
<つづきは製品でお楽しみください>