この人……何者なんだ?
公園ならまだしも、他人の敷地の庭で寝転がってるなんて普通じゃないよ。下手したら不審者として通報されたっておかしくないんだ。
普通じゃないのは服装もそうだ。
和服っていうか……この着物と袴って何かの衣装だっけ?見たことがあるような、無いような……??
それに……すごい綺麗な人なんだ。
全然日焼けしていない白い肌。サラサラの長い髪。整った顔立ちは、眼を閉じているから人形のようにも見える。
綺麗すぎて怖いっていうか……声をかけるのをためらってしまうんだ。
だからって、このまま放ってもおけない。眠っているだけなら起こさないと!
【幹】
「あ……あの!」
【???】
「……ん……」
【幹】
「こんなところで寝てちゃ、風邪ひくよ? それとも具合が悪いのかな?」
今度は普通に声をかけたけど反応はあった。その人は数回瞬きすると、優しく微笑みかけてたんだ。
笑ったことで、人形みたいに硬質だった表情が穏やかになって……真っ直ぐにオレを見つめている。
睨まれてるわけじゃないのに、動けないし眼を逸らすことも出来ない。
笑ってる方が綺麗だって思ったら……。
うわぁ! 急に恥ずかしくなってきた……!
【???】
「おはようございます」
【幹】
「お……はよう、ございます」
思わず挨拶をかえしちゃったけど、この状況はかなり間抜けだ。でも向こうはそう思っていないのか、真面目にお辞儀までしてきてる。
妙に礼儀正しくて、こっちの調子が狂ってくるんだ。
【幹】
「あの……あんた誰?」
【???】
「私は……スオウと申します」
【幹】
「スオウさん……?」
【スオウ】
「ご心配なく。怪しい者ではありません」
懐から差し出してきたの……名刺?
名刺にしては名前とビル名と部屋番号だけで、住所も電話番号も記されていない。
これって怪しくないか? しかも、この名前……。
【幹】
「レ……レゾルチスタ・スオウ??」
しかも職業が占い師?!
怪しい……むちゃくちゃ怪しいよ!!
【スオウ】
「ああ、その占い師というのは生計を立てるためのものです。本業は別にありましてね」
【幹】
「占い師じゃないの?」
【スオウ】
「ええ、実は私、愛の伝道師として諸国漫遊している身の上なのですよ。愛に迷える子羊を、正しき道へと導くのが私の使命!」
【スオウ】
「……まあ、時には獅子のように崖から突き落とすこともありますけどね」
【幹】
「はあ……??」
【スオウ】
「おや……イマイチ受けがよろしくないようですね。自己紹介はもっとシンプルな方がいいのか……」
怪しい……こんなこと言っちゃったら、ますます怪しくなるって自覚してないのかな?
このハイテンションじゃ、気づいてないか……。
【スオウ】
「とにかく! 数年おきに河岸を変えてきたのですが、つい先日こちらへ移って参りました」
【幹】
「それで……うちに、何か用なのかな?」
【スオウ】
「特に用があったわけではありません。ただ……数年でどこもすっかり変わっていましたが、こちらだけは当時のままで……。嬉しくて、つい入り込んでしまいました」
【幹】
「前にも、うちに来たことがあるの?」
【スオウ】
「はい。懐かしさと、あまりの居心地のよさに転寝なでしてしまった次第です」
転寝っていうか、思いっきり熟睡してたよな。
何にしても、他人の家の庭先で寝コケるのは、どうかと思うぞ。