階段を上りきると、足元の床がぎしっと軋んだ。
歩くたびぎしぎし言ってる……。
二階には、廊下を挟んで部屋がいくつか並んでいる。
どこの部屋かなーってきょろきょろしてたら、目の前でドアが開くのが見えた。
そこから、背が高くてがっしりとした体躯の青年が出てくる。
しかも、すごい派手な金髪……。
――もしかして、あれがレイ??
部屋を出たばかりの彼は、オレに気づくと軽く目を瞬いて、
ゆっくりと近づきながらオレの顔をじーっと凝視し始めた。
【???】
「君は誰? どうしてここにいるの?」
うっわーー、なんだこの、極上の甘い甘い笑顔は。
しかも外国人だし……。
褐色の肌で、碧色の瞳で……すごく整った顔立ちだ。
妙に恥ずかしくなって、オレは赤くなってしまった。
しかも、顔を近づけて覗き込んでくるし。
【幹】
「か、管理人になる樋口幹です!」
【???】
「ヒグチ……ヒグチ……ムトキ?」
【幹】
「モトキ、ですよ。ヒ・ク・゙・チ・モ・ト・キ!」
【???】
「……うーん、言いにくいなぁ」
モトキって、外国の人には、発音しにくい言葉なのかな?
オレにはよくわからないけど……。
けど日本語めちゃくちゃ流暢で上手いなぁ。
【???】
「ああ、僕も自己紹介しないと。僕はレイモンド・リー・バラクリシュナン。レイでいいデス。どうぞよろしく、管理人さん」
この人がレイ、か。
まさか外国人だったとはな。
【レイ】
「そうだ、名前を漢字で教えてくれない? 僕、とっても日本語に興味があるんだよ」
【幹】
「漢字で? いいよ」
レイは丁寧にも自分のポケットからメモ帳とペンを取り出して、差し出してくれた。
その顔は嬉しそうに輝いている。
【レイ】
「アリガトウ」
【レイ】
「あー、こう書くんだね。これは木の幹だから……。ミキくんって呼んでもいいデスカ?」
ミキくん……。
【レイ】
「嫌デスカ?」
【幹】
「いや、別にいいよ。ただちょっと、女の子みたいだけど」
【レイ】
「アリガトウ。『モ』の発音は苦手なんデス……」
苦手ならしょうがないよな。
愛称みたいなもんだと思って、理解しよう。
【レイ】
「僕の他に、誰かと会いました?」
【幹】
「うん。松丘さんとマドカに」
【レイ】
「じゃあ僕で最後だね。ミキくんが増えて賑やかになるよ。嬉しいなぁ」
むしろこれから減っていって静かになる予定なんだけど……、言い出しにくかった。