【プロローグ第3回】

二階もあるんだっけ。

上が住人の部屋なのかな。

行ってみよう。

階段を一段上って、上を見上げると……、誰かが同じタイミングで下りてきた。

ちょうど階段の真ん中で、オレとその相手が立ち止まる。

狭い狭い階段だから、すれ違うのも一苦労。

すれ違うかと思った瞬間、相手が仰け反って真っ赤になり、そのまま硬直してしまった。

オレを凝視したまま凍りついてしまってる。

なんなんだ……??

見上げなきゃいけない位の長身。

長い前髪が目元に被さっていて、表情がちょっと読み取りにくい。

真っ赤になってるのだけは、はっきりわかるけど。

こいつは、レイとマドカ、どっちだろう。

【幹】
「何?」


【???】
「あ、あの、いや……」

かなり狼狽しているらしい。

オレ、そんなに驚かしちゃったのか?

【幹】
「えーと、ここの住人、だよな? オレ、管理人になる樋口幹って言うんだけど、あんたは?」

【???】
「吾妻……円」

やっぱり男なのか……。

松丘さんが嘘をついてるかも、なんて儚い期待をしていたのに。

じゃなくて、こいつがマドカかー。

長身だけど線の細い見た目には、『マドカ』って名前も合ってなくはないか。

これでごつい見た目だったら、うへぇって思っちゃうけど。


【マドカ】
「あ、あの、階段……、通ろうとしてたのに、邪魔しちゃって……」

【幹】
「ああ、別に気にしてないよ。それに、挨拶に行こうとしてたとこだったし、ここで会えて丁度良かった」


【マドカ】
「そっか……、よかった……。あ、僕のことはマドカでいいよ。も、幹くんって……、呼んでもいいかな?」

【幹】
「オレはなんでもいいよ」

それにしてもマドカって、気が弱そうだ。

俯かないで堂々とすればいいのに、せっかくの長身が台無し。

【幹】
「マドカも今日は休みとか?」


【マドカ】
「うん。普段は、近くのカフェでバイトしてるんだ。今日は珍しく、みんな休みだね」

【幹】
「偶然みんな休み……、か」


【マドカ】
「さっき声がしたから、下りて行こうとしたんだけど、もうみんなには会った?」

【幹】
「松丘さんに、食堂みたいなとこで。あとはレイ、だっけ?」


【マドカ】
「レイくんは多分部屋かな」

【幹】
「部屋って上だよな。オレ、行ってみるな!」

マドカの脇を潜り抜けるようにすれ違う。ちょっと体がぶつかると、マドカは跳ね上がりそうにびくうっと震え、強張ってしまった。

……おかしな反応だなぁ……。

まぁ、気にしないにしとこ。

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