二階もあるんだっけ。
上が住人の部屋なのかな。
行ってみよう。
階段を一段上って、上を見上げると……、誰かが同じタイミングで下りてきた。
ちょうど階段の真ん中で、オレとその相手が立ち止まる。
狭い狭い階段だから、すれ違うのも一苦労。
すれ違うかと思った瞬間、相手が仰け反って真っ赤になり、そのまま硬直してしまった。
オレを凝視したまま凍りついてしまってる。
なんなんだ……??
見上げなきゃいけない位の長身。
長い前髪が目元に被さっていて、表情がちょっと読み取りにくい。
真っ赤になってるのだけは、はっきりわかるけど。
こいつは、レイとマドカ、どっちだろう。
【幹】
「何?」
【???】
「あ、あの、いや……」
かなり狼狽しているらしい。
オレ、そんなに驚かしちゃったのか?
【幹】
「えーと、ここの住人、だよな? オレ、管理人になる樋口幹って言うんだけど、あんたは?」
【???】
「吾妻……円」
やっぱり男なのか……。
松丘さんが嘘をついてるかも、なんて儚い期待をしていたのに。
じゃなくて、こいつがマドカかー。
長身だけど線の細い見た目には、『マドカ』って名前も合ってなくはないか。
これでごつい見た目だったら、うへぇって思っちゃうけど。
【マドカ】
「あ、あの、階段……、通ろうとしてたのに、邪魔しちゃって……」
【幹】
「ああ、別に気にしてないよ。それに、挨拶に行こうとしてたとこだったし、ここで会えて丁度良かった」
【マドカ】
「そっか……、よかった……。あ、僕のことはマドカでいいよ。も、幹くんって……、呼んでもいいかな?」
【幹】
「オレはなんでもいいよ」
それにしてもマドカって、気が弱そうだ。
俯かないで堂々とすればいいのに、せっかくの長身が台無し。
【幹】
「マドカも今日は休みとか?」
【マドカ】
「うん。普段は、近くのカフェでバイトしてるんだ。今日は珍しく、みんな休みだね」
【幹】
「偶然みんな休み……、か」
【マドカ】
「さっき声がしたから、下りて行こうとしたんだけど、もうみんなには会った?」
【幹】
「松丘さんに、食堂みたいなとこで。あとはレイ、だっけ?」
【マドカ】
「レイくんは多分部屋かな」
【幹】
「部屋って上だよな。オレ、行ってみるな!」
マドカの脇を潜り抜けるようにすれ違う。ちょっと体がぶつかると、マドカは跳ね上がりそうにびくうっと震え、強張ってしまった。
……おかしな反応だなぁ……。
まぁ、気にしないにしとこ。