【???】
「誰だよ」
【幹】
「わっ!」
び、びっくりしたーー。
台所から包丁を持ったまま現れたのは、オレと大して年も変わらなそうな青年だった。
……雰囲気は、ちょっと、いやかなり、怖そーだ。
髪型とか服装は普通なんだけど、どうしてこんなに怖いんだ?!
近寄りがたいっていうか、こういうタイプの前だとどうしても緊張してしまう。
せめて、睨むのやめてくれないかな……。
それと包丁! 似合いすぎて、怖い……。
【???】
「ここに何か用か?」
鋭い目がじろじろとオレを検分するみたいに眺め回す。
観察されてるような気がして、思わず背筋を正してしまった。
【幹】
「……さっき、玄関でこんにちはーって言ったんだけど……」
【???】
「聞こえなかった」
あんなに大声出したのに、聞こえないわけないだろ!!!
玄関からここまで、そんなに距離もないのに。
きっと応対するのが面倒だったんだろうな。
【幹】
「聞こえてたくせに!! オレ、大声出したんだぞ!」
【???】
「やたら威勢がいいな、お前。で、お前は何者なんだ?」
【幹】
「オレは今日から管理人になる樋口。あんたは?」
【???】
「松丘晃。お前に管理される住人だ」
松丘さん、か。
正直、出て行ってくれって言って、あっさり頷いてくれるようなタイプには見えないな……。
【幹】
「他の住人は?」
【コウ】
「今日は全員いるぜ。部屋にいるんじゃねぇの?」
ああ、いるんだ。
願わくば、他の住人は追い出しやすそうだといいんだけど。
【幹】
「そっか。松丘さんは食事の支度中だった?」
【コウ】
「ああ。昼飯食い遅れたからな」
自炊なんてしなさそうなタイプに見えるのに、なんか包丁の扱いには慣れてそうだ。
ここじゃみんな自炊してるんだろうか?
下宿の仕組みが、オレにはサッパリわからないや。
他の住人がどんな感じなのか見に行ってみようかな。
【幹】
「住人って、全部で何人いるんですか?」
【コウ】
「俺含めて三人。あとの二人はレイとマドカって奴だ」
レイと、マドカ。
………女の子?!
オ、オレ聞いてないぞ。
女の子と同居なんてそんな……。
そこまで考えてなかった。
名前から想像できるのは可愛い女の子だし。
【コウ】
「ちなみに両方男だからな。ビビったのが顔に出てるぜ。わかりやすいな、お前。引っかかるかなと思ってわざと下の名前を出したら、案の定だったな」
松丘さんは面白がる目つきでオレを眺めている。
完璧にからかわれてる。
く、悔しい。
【幹】
「………それじゃあオレは他の人に挨拶してくるから! お邪魔しました!」
くっそーー。
あっさり引っ掛けられちゃった自分が恥ずかしい。
さっさと他の人に挨拶しとこうっと。