【幹】
「……あ……」
ぽろっと、何かが頬を伝った。
熱い、涙。
急に胸の奥が苦しくなって、息が……。
優しかったばーちゃん。
優しすぎたせいで、オレを手放してしまったばーちゃん。
………もういないのか。
オレは自分が泣いていることに気づいてなかった。
【辰川】
「幹くん……」
斜め横に立つ辰川さんが手を伸ばしてきて、ひどく優しい手のひらをオレの頭に乗せた時、ようやく気がついた。
オレは、死んでしまったばーちゃんの為に泣いてるんだろうか。それとも、ばーちゃんまで失った自分が可哀相で泣いてるんだろうか。
こうして優しく頭を撫でる手のひら。
……懐かしい気がする。
なんだっけ、この感じ。
そうだ。オレは、こうやってお兄ちゃんに頭を撫でてもらうのが一番好きだった。
すごく……、落ち着くんだ。
お兄ちゃんにもばーちゃんにも、あれっきり会ってない。
会いたくても、会えなかった。
呆然としたまま辰川さんを見つめた。
すると、彼は軽く苦笑して手を引っ込めてしまった。
【辰川】
「すまない。つい、癖で」
……頭を撫でるのが癖って……。
【辰川】
「猫がね、好きで、こうしてよく頭を撫でるんだ」
オレは猫か!!
口に出すのは堪える。一応初対面だし。
なんだか気恥ずかしくて、ほんの少しだけ辰川さんと距離を取った。
【幹】
「猫、飼ってるんですか?」
【辰川】
「いや、飼ってない。仕事が忙しくて面倒が見れないからな」
【幹】
「そっか」
こっそり目元を拭い、泣いてた形跡を消す。
それにしてもみっともないよなぁ、オレ……。
初対面でいきなり泣き出されたら、困っちゃうよな。
【辰川】
「それで、話の続きなんだが、遺産の相続の話をしに来たんだ」