【幹】
「オレに来客って……、誰なんだろ……」
わざわざ訪ねてくるような知り合いなんていないはずだけど。
友達とも表面的な付き合いしかしてなくて、家までやって来るような親密な関係の奴は一人もいない。
そういうの、苦手なんだ。
誰かと深く付き合ったり、関わるのが苦手。だから、誰とでも線を引いて付き合っている。
仮の両親とも。
【幹】
「もう、10年以上経つのか……」
この家に来てから、そんなにも時間が経ってしまった。
母親を事故で亡くしたオレは、親戚連中の一存で、今の両親――里親の元に預けられることになった。
半ば無理矢理に里親に預けられたオレは、一時的に自閉状態になってしまってい、その結果、里親との関係はぎくしゃくしたものになってしまった。
少し前、里親との親子ごっこに嫌気が差したオレは、ばーちゃんの所に逃げようと考えた時があった。
子供っぽい発想だよな。
でも、無理だった。
オレには、自覚している記憶障害があるからだ。
実行に移せなかったのは、オレがばーちゃん家の場所を憶えてなかったから。
自分の家からも近かったはずなのに。
いや、自分の家の場所すら思い出せなかったのだ。
場所はもちろん、どんな家だったかも思い出せなかった。
ここに来る前の出来事の全てが、霧がかかったようにぼんやりとして、はっきりしない。
憶えてるのは、お母さんが死んだこと。
事故で。
……どんな事故だったっけ?
…………。
断片的にしか浮かんでこない。
だめだ。
また頭が痛くなる。
思い出せない。
【幹】
「…………」
ため息をつき、家を出た。
オレを待つ来客がそこにいるはず。
オレにはよくわからないけど、里親がその客人を家に入れるのを拒んだらしい。