彼を初めて見たのは宝生学園の入学式、満開の桜の木の下だった。
ふと視線を感じて振り返ったオレの目に飛び込んできたのは、
真っ直ぐに見つめてくる真摯な眼差しだった。
大勢いる生徒たちの中、彼はずいぶんと目立っていた。
桜の花びらのくっついたサラサラの髪。
すこし長めの前髪をしなやかな指で掻き上げる仕種。
端正に整った顔はあくまでも甘く、華がある、とでもいうのだろうか。
まるで七色のオーラが周りをグルリと囲んでいるみたいに、
彼だけが光っていて、すっごくカッコよかった。
だけど……。
「……?」
どこかで会ったっけ?
こんなに目立つ人なら一度会えば忘れないはずなのに。
なのにオレはいくら思い出そうとしても、ぜんぜん見覚えがなかった。
けど、彼がオレを見てるってことは、やっぱりどこかで会ってるってこと……?
オレがあんまりジロジロ見たせいだろうか、ふいに彼の目が細められた。
切れ長の眼差しに鋭く射抜かれて、オレは立ちすくむ。
その時だった。
急に彼が笑ったのだ。
優しくて懐かしいような、そしてものすごくキレイな笑顔だった。
びっくりした。
世の中にはこんなふうに人の心を掴む微笑があったなんて、
その時、オレは初めて知ったんだ。